苦労して入手した大好きなアーティストのライブチケット。会場の席についてみると、ステージから遠すぎてアーティストの姿は豆粒大にしか見えなかった、という経験はありませんか。
私がコンサートに出かけるときは、必ずネットで会場についてリサーチします。「ライブ基地」というサイトでは、全国にあるライブ会場の情報が細かく掲載されているので、大変重宝します。
席からステージまでの距離を把握してから、最適な倍率・口径の双眼鏡を選んで持っていくようにしています。
私は複数台所有していますし経験値も高いので、どの双眼鏡にしようかほとんど悩みません。しかし、初心者の方が購入する場合は、一体どの双眼鏡を選んだらいいのかわからないはずです。
今回はドームやアリーナなどの大規模会場でのコンサートに持っていく双眼鏡を探している人のために、最適な双眼鏡の選び方をできるだけ簡単に解説します。
ドームやアリーナなどで開催されるコンサート(ライブ)に持っていく双眼鏡を選ぶときのポイントは、適切な倍率を選ぶことです。
初めて双眼鏡を購入する場合は、一体何倍が適切なのかまったく見当がつきません。そこで、倍率と見え具合の関係を知ることが必要です。
双眼鏡の初心者は「高倍率ほど高性能」と思いがちですが、これは全くの勘違いです。その理由について、ひとつずつ説明します。
双眼鏡の基本スペックを表すとき「5×21」という表記が使われます。「A×B」の場合、A(最初の数字)は倍率をB(右の数字)は対物レンズの口径を表します。
では、倍率についてもう少し詳しく見てみましょう。5倍の意味は
「対象までの実際の距離の5分の1のことろまで近づいて肉眼で見た大きさに見える」
ということです。
写真左側の中央の円内に木の幹が見えますが、ここまでの距離はおよそ120mです。ドームのスタンド席からステージを見るイメージです。ステージ上の人は豆粒大にしか見えません。
これを5倍の双眼鏡を使うと、120m÷5=24mとなるので「24m先の人間を肉眼で見たときの大きさ」に見えることになります。
右側の円内は実際に5倍の双眼鏡とスマホのカメラで撮影したものです。テレビカメラで撮影するようにはいきませんが、肉眼よりもはるかによく見えることがわかります。
ところで多くの人が、高倍率ほど高性能と勘違いしています。双眼鏡に詳しい人は12倍以上の倍率を選ぶことはありません。
理由は倍率が高くなるにしたがって、いろいろな弊害が出ることを知っているからです。
倍率が高くなると、明るさは低下します。これはどんなに高性能な双眼鏡でも適用される法則です。
ごく簡単な明るさの計算法を紹介します。
口径÷倍率=ひとみ径
ひとみ径の2乗=明るさ
例えば、口径20mm・倍率5倍の双眼鏡なら次のように明るさを求めます。
20mm÷5=4
4の2乗=16
同じく口径20mm・倍率10倍の双眼鏡なら次のようになります。
20mm÷10=2
2の2乗=4
同じ口径の双眼鏡なら、倍率が5倍→10倍に上がると明るさは4分の1に低下します。10倍の双眼鏡では、暗い会場で使用すると非常に見にくさを感じます。
また、高倍率になると明るさが低下するだけでなく、像がぼやけたり、レンズの収差が目立つようになります。
倍率が低すぎれば、「ステージ上のアーティストを大きく見たい」という目的が果たせないのは確かです。しかし、倍率が高すぎても暗くぼやけた像しか得られず、アーティストの姿をハッキリと見ることは難しいです。
適度な明るさを保ちつつある程度の大きさを得たいなら、一般的には5~8倍の双眼鏡が適切です。
高倍率が引き起こす弊害は、明るさの低下や像の悪化だけではありません。もうひとつ、見え方を悪くする「手ブレ」がひどくなります。倍率が高いと、ブレの幅も大きく見えるようになるからです。
私の経験から5~10倍の双眼鏡を手持ちで使用した場合、手ブレはどのように影響するかを表にまとめましたので参考にしてください。
私のお客様で広島グリーンアリーナで行われたコンサートに親子で行かれる予定の方がいらっしゃいました。そこで5×21(5倍の双眼鏡)と7×20(7倍の双眼鏡)を2台持っていっていただき、比較してもらうことにしました。
まずは、感想をご覧ください。
広島グリーンアリーナでは、ステージからスタンド席の一番遠いところまでおよそ75mとなっています。どの席に座っていたのかは不明ですが、おそらくステージまで5~60mくらいだったと思われます。
お手紙の中で書かれているとおり、5倍のほうが見やすく感じたようです。コンサートなので演出上館内が暗くなり、より明るく見える5倍のほうが「見やすい」と感じたのかもしれません。
全国にある大規模なアリーナ(さいたまスーパーアリーナ)などでは130mを超えるので、その場合は7倍のほうが満足度が高かったかもしれません。
ここから学ぶべきことのいくつかをまとめてみます。
・ドームやアリーナクラスの大規模会場でも、必ずしも高い倍率のほうがよいとは限らない。
・初心者にとっての扱いやすさや明るさは低倍率のほうが優れている。
・7×20(ひとみ径約3mm)なら、それほど像は悪化しない。
・手紙の中の「ストレス」はおそらく手ブレのことで、やはり低倍率のほうが扱いやすい。
ここまでの説明を読むと、大きく見るための倍率と見やすさはトレード・オフ(あちらを立てればこちらが立たず)の関係であることが理解できたと思います。
アーティストの顔をできるだけ大きく見るには大口径・高倍率が必要です。しかし、高倍率には像が暗くなったり悪化する弊害があります。さらに、高倍率になるほど手ブレの影響を受けやすくなります。
私の考えですが、ドームやアリーナなどの広い会場でステージまでの距離が100mを超える場合には、アーティストの細かい表情まで見ることは思い切ってあきらめたほうがよいと感じます。
その代わり、口径20mm台のコンパクト双眼鏡でも充分な明るさを得られる5~7倍程度に倍率をおさえたものを選ぶことをおすすめします。
低倍率でも肉眼で見るよりははるかによく見えます。使いやすく見やすいので、毎回コンサートの度に活躍する機会が増え、結果的にいい買い物をしたと感じることが多いです。
口径20ミリクラスのコンパクト双眼鏡なら、5~7倍までに抑えましょう。
口径30ミリクラスの双眼鏡を携帯するのが苦でなければ、8倍でもOKです。ただし、女性にとってはやや重く感じるかもしれません。
双眼鏡の使用目的がコンサートなら、倍率以外にも気をつけるべきポイントがいくつかあります。
アリーナやドームでは屋根がついているところがほとんどなので、雨の中の使用は考慮に入れる必要がありません。つまり、防水機能は不要ということです。
双眼鏡を防水にする場合、窒素ガスを充てんしたり部品点数が増えるため、価格が上昇します。しかし、屋内での使用が前提になっているなら余計な機能がついている高い製品をわざわざ選ぶ必要はありません。
防水機能は不要であること以外にも、コンサート用の双眼鏡に求められるポイントをまとめてみました。
電車に乗って会場へ行き長蛇の列に並んで会場入りするので、カバンが重いと予想以上に疲れます。
カバンに入れてもかさばらずに重さを感じないのは、口径20ミリクラスのコンパクト双眼鏡です。重量は200g程度です。
本格的な口径30mmの双眼鏡になると、重量は500g程度に一気に増えます。レンズやプリズムに使われているガラスが重くなるからです。
500mlのペットボトルをカバンに入れると意外と重く、肩こりになることがあります。30mmの双眼鏡ではこれと同等と考えてください。
小さめの肩掛けカバンにすっぽりと入り、重さを感じないコンパクト双眼鏡がコンサートには向いています。
ひと昔前の双眼鏡は色は黒と決まっていました。しかし、最近ではコンパクト双眼鏡ではおしゃれなカラーバリエーションが一般的になっています。
確かにコンサート会場で、バードウォッチングでもするかのような黒くゴツイ双眼鏡を構えていたら、少し気恥ずかしさを感じます。
そんな時手のひらに収まるくらいの大きさで、なおかつおしゃれなカラーの双眼鏡であればコンサート会場で周囲の目を気にすることなく双眼鏡を使用できます。
ボディの色は光学性能とは無関係ですが、気持ちよく使いたいなら自分の好きな色を選ぶのも大切です。
近視の人で普段メガネをかけている人は、双眼鏡を選ぶときには注意が必要です。
双眼鏡の接眼レンズ(のぞくほうのレンズ)と目の間にメガネのレンズが入るため、少し距離が離れます。
このことを想定して設計された双眼鏡なら、メガネをかけたままでも双眼鏡を使うことができます。
メガネをかけたままでも使用できる双眼鏡を選びたければ、スペック表にある「アイレリーフ」の項目の数字に注目してください。アイレリーフが14㎜以上ならメガネをかけたままでも問題なく使用できます。
アイレリーフが14mm以上あるタイプのものを「ハイアイ」とか「ロングアイレリーフ」と呼ぶことがありますので、覚えておきましょう。
双眼鏡を購入するとき、ネットで買うか実店舗で買うかで分かれます。ネット購入するときは、あらかじめリサーチしておいて信頼できるメーカーや商品を検索して購入するのが間違いのない方法です。
実店舗の場合、私のおすすめは〇〇カメラなどの量販店です。大都市に行けばたいていあります。実際に手に取って比較できるのが安心できるところです。
店内は明るい蛍光灯で照らされていて、光学性能をきちんと比較するのは意外と難しいです。気の利いた店舗では、わざわざ外に双眼鏡を置き遠方をのぞけるように配慮してくれているところがあります。
おすすめしないのは、ホームセンターや百円ショップでの購入です。私が知る限り、きちんとした双眼鏡に出会うことはほとんど不可能です。
双眼鏡は8倍以上になると手ブレが気になりだし、私の経験上、水平方向を見る場合でも10倍が限界と感じます。これ以上の倍率だと、どんなにしっかりと双眼鏡を構えても視野は落ち着きなく揺れ動き(手ブレ)細かいところは見えてきません。
これは手持ち双眼鏡の宿命です。これを防ぐには三脚に固定するしかないのですが、そうなると双眼鏡の最大の魅力である機動力・携帯性が大きく損なわれます。
ところが手ブレがほとんど生じない双眼鏡が実際に売られています。それが「防振双眼鏡」です。
防振双眼鏡を使用するとスタビライザー(手ブレ防止機能)が働き、10倍以上の倍率でも視界は三脚に固定しているかのようにピタッと静止します。
もちろん左右に動かせば視野も動きますが、大きなゆったりとした揺れだけであり見え味を損ねる細かい揺れは完全にカットされます。
私も以前、キヤノンから発売されている10倍の防振双眼鏡で星を見たことがありますが、スタビライザーのスイッチを入れた瞬間、それまで見えなかった微光星が黒い夜空からジワッと浮かび上がり感動しました。
このように素晴らしい見え味の防振双眼鏡にも欠点があります。
・欠点は大きい・重い・高い
欠点の一つ目は、重いことです。スタビライザーの装置だけでなくバッテリーが必要なため、普通の双眼鏡に比べて重く大きくなります。
バッテリーが必要なため、電池切れになると手ブレ防止機能が働かなくなり、ただの重い双眼鏡になってしまいます。寒冷地では電池の消耗が激しいため、頭が痛いところです。
そして最大の欠点は、値段が高いことです。キヤノンから発売されている口径30mm10倍の防振双眼鏡は実売価格が5万円台からです。普通の良く見える口径30mmの双眼鏡が2万円台であることを考えれば、かなり高いといえます。
「重かろうが高かろうが構わない、それよりも大好きなアーティストをハッキリと見たい!」
という熱狂的な方なら、試してみるのもいいかもしれません。
アリーナやドームのような大規模な会場で行われるコンサートに出かけるなら、双眼鏡は大活躍します。1台でもきちんとした双眼鏡を手元に置いておくと、長く使えるので最初に満足できる商品を選ぶようにしましょう。
コツは倍率の選び方です。倍率が高すぎると、像が悪化したり手ブレがひどくなります。適切な倍率があるので、その範囲内から選ぶように気をつけましょう。
電車・バス・徒歩で会場まで移動するので、携帯性は大事な要素です。会場で使用するときに、あまりにもゴツイ双眼鏡だと少し恥ずかしくなってしまうので、デザインも大切です。
メガネをかけている人は、そのままでも使用できるハイアイ(ロングアイレリーフ)を選びましょう。基本的に屋内使用なので防水機能は不要です。
両目で立体視できる双眼鏡で好きなアーティストを見ると臨場感があり、ワクワクします。そんな体験ができるようにきちんとした双眼鏡を選べるように知識をつけておきましょう。