私は子どもの頃に買ってもらった天体望遠鏡を大事にしていました。
大学受験で志望校に落ち浪人してしまった私は「望遠鏡断ち」をして受験勉強に集中することにしました。
そして翌春。無事志望校に合格し、久しぶりに押し入れから望遠鏡を取り出したところ、対物レンズにクモの巣状の白いカビがびっしりと生えているのを発見し、本当に悲しくなってしまいました。
このような悲劇は、ちょっとだけ気をつければ防げるものです。今回は大切な双眼鏡をベストコンディションで維持するための方法について説明します。
1年以上押し入れにしまい込んでいた双眼鏡をいざ使おうと取り出すと、レンズの内側に白いカビが発生していた…
高温多湿になる日本では、このようなケースがしばしば起こります。
カビの発生原因は高温・湿度(水分)・風通しの悪さの3つです。
クモリの発生原因は、内部で使用されている接着剤や潤滑油が適切でない場合、それが揮発してレンズの内部に付着してうっすらと白く濁らせるとされています。
軽微なカビやクモリであっても、コントラストの低下を引き起こし見え味を損ねてしまいます。
よく中古双眼鏡のオークションの説明で「クモリはありますが、見え味に影響はありません」という記述がありますが、信じてはいけません。
大事な双眼鏡にカビやクモリが発生していることに気づいたら、早めにメーカーの保証書やマニュアルに記載されているサービスセンターに問い合わせるようにしましょう。
保証期間が過ぎている場合は有償での修理となります。一度メーカーに送ると、見積もりの金額を聞いてから修理するかどうかをたずねてくれます。
マイナーなメーカーや何十年も前の双眼鏡だと、修理を持ち込める会社を探すのに苦労します。
何年か前までは修理を受け付けてくれるところがありましたが、手間の割には儲からないために現在修理を受け付けてくれるところはほとんど見つかりません。
双眼鏡のカビについては注意さえすれば確実に防げます。
カビの対処は面倒だし、費用がかかります。一度、ツァイスの双眼鏡のプリズムにカビを発生させてしまい、ドイツまで送って部品を交換してもらいました。完成まで数カ月待ったのと3万円ほどの費用が発生し、かなり痛い出費となりました。
では、どのような保管をすればカビから双眼鏡を守れるのかについて具体的に説明します。
先述したように、カビの発生原因は高温・湿度(水分)・風通しの悪さの3つです。温度を調節するとなると大掛かりな話になるため、湿度のコントロールがポイントです。
私自身は、簡易防湿庫というプラスチックの衣装ケースのようなものを使用しています。
これは蓋の部分に「パッチン」ととめる機能がついていて、密封できるようになっています。また、横には湿度計がついていて適度な湿度に保たれているかどうかが一目でわかるようになっています。
針がwetの部分を指していて、良くない状態でした。しばらく乾燥剤を補充していなかったので、新しいものを追加して密閉しておきました。
簡易防湿庫内は双眼鏡本体をむき出しでしまうのが一番良いですが、ケースに入れたままでも問題ないでしょう。ただし、かつてよく見られた本革でできたケースはカビが発生しやすいため、ケースから出して保管してください。
コンパクト双眼鏡1台しか持っていないなら、風通しの良い場所に吊るして保管しましょう。通気性がよければカビは発生しにくいからです。押し入れなどにしまい込むのが一番いけません。
その証拠に、年中使用している双眼鏡にはカビは発生しません。
双眼鏡には、両吊りと片吊りのストラップがあります。片吊りは使うときに90度回転させるため面倒を感じます。
しかし、メリットもあって首からぶら下げているときにレンズを汚れから守ってくれます。
双眼鏡を首から下げているときに会話をすると唾液の飛沫が接眼レンズに付きやすくなります。長時間放置しておくとしみのような跡がレンズの表面に残ってしまいます。
両吊りの場合は、使用しないときはマメに接眼レンズのキャップをかぶせておく習慣をつけておくと唾液の飛沫から守れます。
・レンズが汚れたときの清掃法
最もやってはいけないのが、はぁーっと息を吹きかけてティッシュやハンカチでレンズの表面をふき取るやり方です。
レンズの表面に細かい砂ぼこりがあると、確実にレンズの表面に傷を作ってしまいます。
そこでエアダスター(PCの清掃に使うスプレー)やブロアーを使って、最初にホコリを吹き飛ばすようにしましょう。
その後、綿棒の先に「無水エタノール」を少量つけて、そっと汚れをふき取ります。無水エタノールは薬局で普通に購入できます。カメラ専用のレンズクリーナーよりもお得です。
最新のレンズコーティングの中には、撥油コートなどと呼ばれる汚れがつきにくい機能があります。たとえ汚れがついたとしてもそっとふき取ればすぐに汚れが落ちるため、大変重宝します。
普通のレンズコーティングでは拭いたあとに「拭きムラ」が残ることがあります。これはレンズに悪影響を与えないので、あまり神経質にならないようにしましょう。
双眼鏡にはゴムが使用されている部分があります。外装のラバーや接眼部の見口にゴムが使用されます。
ひと昔前の双眼鏡では、このゴムの部分が経年劣化して白く粉をふいたような状態になったり、ベタベタした感触になったりすることがあります。
見口のゴムはメーカーから取り寄せれば自分でも簡単に交換できるものが多いです。外装のラバーの劣化については、メーカーに交換に出すしか対処法がありません。
最近は見口の部分がプラスチック製(高さが変えられるツイストカップ)になっているものが多く、ゴムの劣化の心配はなさそうです。
レンズ内に見られる微小なホコリは、工場での組み立て時に付着したものです。製造過程で最終チェックをするものの組み立て後に、微小なホコリがプリズムに付着することがあります。
双眼鏡の見え方にはまったくといっていいほど影響はありませんが、どうしても気になるのなら購入前に充分にチェックするようにしましょう。
ホコリではなく潤滑油などが付着したような跡があるなら、早めにメーカーに問合せをして交換対応するようにしましょう。
レンズにカビやクモリを発見すると本当にがっかりです。特に愛用していた双眼鏡ならなおさらです。
そうならないためにも、カビを発生させないよう予防することが大切です。簡易防湿庫などを利用して双眼鏡にカビを発生させないようにしましょう。
レンズが汚れたときはホコリを充分に吹き飛ばしてから、アルコール(無水エタノール)を少量つけた綿棒でそっとふき取るようにしましょう。
双眼鏡に使用されているゴムの部分は劣化することがあります。見口のゴムは素人でも簡単に交換できるので、メーカーや購入先に問合せをして取り寄せれば解決です。
ちょっとした気配りで双眼鏡は何十年もベストな状態で使い続けることができます。保管とメンテナンスのコツを学んで、大事に使いましょう。