私は日の出光学が最初に販売した5倍コンパクト「A1」から販売してきました。あれから月日は流れて、ついに5代目となるA5が発売されることに!
しかし、このモデルチェンジについて正直私はあまり喜んでいませんでした。なぜなら、旧モデル「A4」の出来が良かったからです。
新しく「ヒノデ5×21-A5」がA4と比較してどのように変わったのか、に焦点を当てるとともに、これから初めて双眼鏡を購入する方にもおススメできるかどうかをレポートしてみます。
試作機が届いたのでさっそく箱を開け商品を取り出しました。で、その感想は…、
「なんだかツルツルになったなぁ」
旧型と比較した写真がこちらです。
もっと細かいところでは、右側の接眼レンズにある視度調整の目盛りの0の部分に、A5では白い点が入るようになりました(下の写真右側)。
誰かと双眼鏡を共有する場合、自分の視度調整の位置を覚えていればすぐに使えます。ところが薄暗い場所ではこの目盛りが見えないのでモタモタすることになります。
その点、A5には0の部分に白い点が打ってあります。リングの白い線との位置関係を覚えていれば、薄暗い場所でも一瞬で自分用に調節することが可能です。
う~ん、なんて細かい配慮なんだ!
・50グラムの軽量化に成功!
今回、新作を紹介されるにあたり、日の出光学の方からは「重さが50グラム軽くなりました!」と聞きました。
双眼鏡の重量のうち、多くはレンズとプリズムのガラスが占めます。ガラスの重量は減らすことはできないため、軽量化するにはボディを軽くするしかありません。
旧型では重量が266gでしたが、今回のA5では215gまで軽量化されています。外側からはわかりにくいのですが、ボディの強度を維持したまま50g減らすのは大変なことです。
実際に手に持った感想ですが、「すこし軽くなったかな~」という感じでした。
日頃ジムに行って筋トレをしているので、50gの違いがよく分からず…。
カバンに入れても重さを感じないコンパクトの基準が200gといわれているので、大きめのポロプリズムを採用した双眼鏡としては最軽量と考えてよさそうです。
可動部はすべて動かして確かめてみたところ、非常にしっかりとした造りで摩擦も適度でした。
・ストラップの機能性が向上
地味な改善と言えば、ストラップです。左右両吊りタイプなのはA4のときと同じですが、機能性が向上しています。
↓付属の接眼キャップの穴にストラップのひもを通しておくと、接眼キャップを失くしません(コレ、大事)。
このように、今回のモデルチェンジは、旧型(A4)の明るく視野の広い見え味はそのままに、ボディの形状や造り込みを追求してきた印象です。
双眼鏡のカタログのスペックには、いろいろな数字が並んでいます。
双眼鏡のカタログを見るときに注意しなければならないのは、これらの数字のほとんどは理論値であって実測値ではない、ということです。
つまり、世界最高峰といわれるスワロフスキーの双眼鏡と数千円の粗悪品でも、口径と倍率が同じならカタログ上の数字はほとんど変わりません。
例えば「明るさ」を決める数字は、ひとみ径(口径mm÷倍率)を2乗すれば簡単に計算できます。
しかし、高級機と粗悪品を見比べると、明るさの違いは一目瞭然です。なぜなら、光の透過率を高めるコーティングのグレード、コントラストを高めるための内面のつや消し処理などが異なるからです。
しかし、これらの違いはカタログのスペックを見ただけではなかなか判断がつきません。スマートホンを購入するときのようにはいかないのです。
私がヒノデA5を最初の1台としてオススメするのは、スペック表に表れていない部分を非常に大事にしている双眼鏡だからです。
双眼鏡をのぞくとき、全視界がきっちりと見える眼の位置のことを「アイポイント」といいます。このアイポイントを外すと、視野の一部に影ができたりまったく見えなくなってしまいます。
初心者の方にとって見やすいのは、このアイポイントが寛容な双眼鏡です。
アイポイントが厳しい双眼鏡だと、眼の位置が少しでもズレると視界が確保できず、ストレスを感じるようになります。徐々に双眼鏡を使うのが面倒になるので、せっかく買っても宝の持ち腐れのような状態になります。
ヒノデ5×21-A5はこのアイポイントが非常に寛容なため、初心者でもストレスを感じずに使うことができます。
アイポイントを寛容にしている要素は複数ありますが、そのうちのひとつとして接眼レンズの大きさが挙げられます。
下の写真は、30年以上前の口径35㎜の双眼鏡とヒノデA5の接眼レンズの大きさを比較したものです。口径はA5のほうが小さいのに、接眼レンズの大きさがA5のほうが大きいことがわかります。
アイポイントの寛容さは数字で表せないために、カタログ上では良さが伝わりません。しかし、実際に使ってみると思っている以上に大切であることがわかります。
広島グリーンアリーナでコンサートに親子で出かけたお客様の感想です。
私の興味・関心は、見やすい5倍と大きく見える7倍のどちらが初心者向きの双眼鏡なのだろうか、ということでした。
中央の赤い下線を引いた部分に注目してください。
5倍はストレスなく見える感じでしょうか。
7倍はよく見えるんだけど、大きく見える分、ゆらっとする感じがしました。
ヒノデK1(7倍)の双眼鏡のアイポイントもそれほど厳しくなく見やすいです。しかし、それ以上にA5(5倍)のアイポイントが寛容なために両者を比べると、見やすさ(扱いやすさ)で上回っていると感じたのです。
最後には5倍か7倍か悩んでおられるので、いい勝負だったのでしょう。
このようにスペック表に表れない部分で、ヒノデ5×21-A5は大変優秀です。特に初心者がストレスを感じる「アイポイント」が寛容なため、かなり使いやすいと感じるはずです。
先述したように、今回のモデルチェンジではボディの形状・軽量化・ストラップの工夫などこれまで気にしなかったような細かい部分にまで改善が見られます。
低倍率でありながら、実視野が11度もあります。初心者の方はイメージしにくいかもしれませんが、手を伸ばしてゲンコツを作ったときの横幅が実際に見える範囲です(写真)。
実視野が11度なら、直感的に双眼鏡を向けて対象が捉えられないということはほとんど起こりません。
ポロプリズムの長所(像のコントラストが高い)を存分に発揮した光学系は歴代のAシリーズに共通しています。その中でも、旧モデルのA4と今回のA5の像の良さは際立っています。
私の地元(埼玉県さいたま市浦和区)では街をあげて浦和レッズを応援しています。子どもがサッカーをしているのもあって、久しぶりにJ1の試合観戦に行きました。
サッカーのような球技(野球、ラグビー、アメフト)などではボールと選手の移動が激しいため、低倍率コンパクト双眼鏡が威力を発揮します。
高倍率だとこのようなデメリットがあるからです。
・視界が狭いため、選手を追いかけるのが大変。
・手ブレの影響を受けやすい。
・中型の双眼鏡でも持ち運びがおっくうになる。
・ピントをしばしば調節しなければならない。
3階席でセンターサークルまでの距離が目視で140mくらいでしょうか。肉眼では選手の背番号がギリギリ見える程度です。
しかし、A5でのぞくとこんな感じです。
上の写真で見るより、実際にはよく見えます。選手の顔や筋肉まではっきりと確認できるほどです。ご覧の通り、広い範囲が一度に見渡せるため、大事なシーンを見逃しません。
実際、この日に決めた浦和レッズの2ゴールとも、はっきりと見ることができました。やっぱり双眼鏡があると、楽しいです。
晴れた夜空に浮かぶ満月をA4とA5で見比べました。
満月を視野の中心に入れたときはどちらも見え方は変わりませんでした。しかし、満月を視野の中心から少し外すと、ゴースト(斜め方向から入る光)の出方がA5のほうが大人しいことに気がつきました。
個体差なのか、内部のつや消しや遮光環などの差なのかまではわかりませんが、A5のほうが気持ちよく見えると感じました。
暗いコンサート会場でステージ上に強いスポットライトが当たっているときなどは、この差が出るはずです。
メガネをかけたままでも双眼鏡を使用するためには、アイレリーフが14mm以上のものを選ばなくてはいけません。
アイレリーフについて簡単に説明しましょう。
接眼レンズの表面から眼を少しずつ離していき、それ以上話すと視野全体を見渡すことができなくなるポイントがあります。そのポイントから接眼レンズ表面までの距離がアイレリーフです。
最近の多くの双眼鏡はメガネをかけたままでも使用できる「ハイアイ(ロングアイレリーフ)」という設計になっています。
もちろんヒノデ5×21-A5もハイアイ仕様(アイレリーフ:16mm)です。
しかし、私が強調したいのはそこではありません。ハイアイ仕様の双眼鏡の中には、メガネを使用しない人が使用すると(裸眼で使用すると)、目当てを顔につけることができずに使いづらいものがあります。
もちろん目当ての高さを変えられるようになっているのですが、それでも調節範囲外になることもしばしばです。
その点、A5はメガネ使用者はもちろん、メガネをかけずに裸眼で使用する人でも快適に使用できる光学設計になっています。
このあたりの気配りはなかなかカタログでは伝わらないのですが、私は重要視しています。
もし、A4をすでに購入されているならあえて新しいモデルに買い替える必要はありません。しかし、A3までのモデルしか所有していないなら、今回は買い替えの絶好のタイミングです。
販売者としてみなさんに新商品を紹介するときは、マイナスの情報も伝えなくてはいけないと考えています。
今回もいろいろと使いながら考えたのですが…正直、思い浮かびませんでした。
これまでの細かい要望がきちんと商品に反映されているため、不満な点が本当に見つからないのです。
あえて挙げれば、防水機能があれば雨天でも使えるのにとは思います。しかし、防水機能をつけると重くなるしコストもかかるため、そこまでして必要な機能には感じません。
不満な点が思いつかないほど完成度が高くなっていることを実感させてくれるA5です。
光学系についてはA4から大きな違いは感じず、A4に満足していた私はかえってホッとしました。
ボディの形状や軽量化、ストラップの改善など、細かいマイナーチェンジについては、一つ一つは大きな違いではないかもしれません。
しかし、全体として考えると細かい不満点をすべて潰してあり、誰にでもおススメできる双眼鏡に仕上がっています。
我が家では子どもがサッカーをしており、試合があるごとにA5を持ち出しています。
初心者だから扱いやすいA5をおススメしているわけではなく、ベテランの人こそこの双眼鏡の扱いやすさや数字に表れない実力を実感してもらえると感じます。
まだ低倍率双眼鏡をお持ちでない方は、ぜひ一度、試してみてはいかがでしょうか。
カラーバリエーション:ホワイト(左)とダークブラウン(右)
価格:14,800円(税・送料・手数料込)