目の肥えた双眼鏡愛好家の方々に朗報です。日の出光学からなぜかひっそりとED(特殊低分散ガラス)を対物レンズに採用した究極の低倍率コンパクト機が発売となりました。
一部の人にしかこの凄さが伝わらないと思うので、簡単に説明しますね。
そもそもコンパクト(口径21ミリ)で低倍率(5倍)の双眼鏡は、屈折望遠鏡の宿命ともいえる色収差が目立ちません。
色収差とは光の波⾧によって焦点距離が異なることから発生する「色ズレ」や「ボケ」のこ とです(下図参照)。
普通に景色を眺めているときにはほとんどの人は気になりませんが、曇り空を背景 に黒い電線や木の枝を視界にいれると、像の縁に赤や青の色の滲みが発生します。
40 ミリ以上の口径で倍率が 8 倍以上の中高級機には、この色収差を抑えるために ED(特 殊低分散)ガラスをレンズの材料に使われるようになりました。10 倍の双眼鏡で、普通の ガラスを使用したものとEDのレンズを比較すると、かなりの違いとなって現れます。
しかし、低倍率コンパクトにあえてEDレンズを採用することは、2つの意味で常識外れな のです。
まず、そもそも色収差が目立たないのに、そこにEDレンズを使ってもその違いを認識でき る人や条件が限られているからです。要は「やりすぎ」です。
次に、コンパクト機は一般の人々がコンサートなどで使用するために出来るだけ廉価に販 売することが求められます。数をさばかないと、商売になりません。
それにもかかわらず、コストが跳ね上がるEDレンズを採用すれば、購入層が限られてしま うからです。
このような2つの意味で常識外れの双眼鏡が、今回リリースされた日の出光学のA+なので す。
日の出光学からの厚意でサンプル機の提供を受けたので、さっそくA5(普通の光学ガラス) とA+(EDガラス)の2 台を見比べてみることにしました。
普通に景色を眺めたら、正直あまり違いを感じません。
色収差を強調させるために、曇天をバックに電線の際に見える色の滲み具合を比較しました(写真)。
写真で見るとわかりにくいので、中心から50%離れたところにある電線の一部を拡大して比較しましょう。
今度は両者の違いが一目瞭然です。
よく勘違いする人がいますが、EDレンズを使ったからといって色収差が完全に除去される わけではありません。また、接眼レンズは普通の硝材で作られているため、色収差は発生し ています。
しかしながら、黒い電線の縁のぼやけ方にかなりの違いがあるのが判ります。
ただし、これは実際の眼で感じるよりもだいぶ誇張されていますので、初心者の方にはほとんど違いが分からないと思います。
夜まで待って 月齢10の月(半月と満月の中間)をA+(EDレンズ)とA5(普通のレンズ)で見比べる
ことにしました。
下の写真は月齢10 の月面写真です(大きい望遠鏡で撮影したもの)。
この頃の欠け際にはちょうど「虹の入り江」と呼ばれる部分(入り江状の山脈)が見やすく なります。この部分をこの2台で見比べてみました。
まず、従来のA5で月を見ると、月の光っている部分と真っ黒な夜空の際のところに色収差 が発生しているのがわかります。そうはいっても低倍率なので、それほど気になるほどでは ありません。
虹の入り江の凹凸もそこそこ見えています。ピントの位置を前後させながらシャープに見 える位置を探しましたが、最後の一息が合わない感じです。
色収差は色が滲むだけでなく、色の波⾧によって焦点距離が変化することから、色ごとに倍率が変化して像がぼやけて しまう現象も引き起こします。
次に、ED レンズを使った A+で月を見てみます。ぱっと見た感じでは大きな違いを感じま せんが、色の滲みがだいぶ抑えられていることが分かります。A5 では滲みの部分に幅を感 じましたが、A+では線にしか感じません。
そして虹の入り江を見ながら注意深く焦点を合わせると、今までにない爽快な気分を味わ えました。A5ではあと一歩ピントが合わずに山脈の凹凸を感じられなかった部分が、A+で は凹凸をハッキリと確認することができます。
しかも月本来の色である無機質なグレーをより一層感じることができます。
日の出光学からの情報で、今回のA+はすべての工程を日本国内で行っていると聞きました。 純国産です。組み立て精度がかなり高いことが分かります。
それだけではありません。A+はレンズとプリズムの使われていない部分を黒く塗装する「コ バ塗り」と呼ばれる処理が施されています。これは内面の乱反射を減らし、像のコントラストを向上させるためのものです。
さっそくLED街燈を視野の端にいれながら、どれくらい内面反射が抑えられているかを比 較しました。
まず、A5ですが黒い夜空の部分に明るい光芒が発生します。特に煩わしく感じるほどひど くはありませんが、劇場でスポットライトの当たる役者を見るときなどは、少し邪魔に感じ るかもしれません。
次にA+で同じ部分を見てみます。すると、先ほどよりも明らかに夜空の黒い部分を覆う光 芒が少なくなっているのがわかりました。感覚的には3分の1程度でしょうか。
おそらく昼間でも逆光の環境などで比べると、見やすさが全然違ってくるはずです。
予想はしていましたが、普通に景色を眺めるだけでは、EDレンズの効果を実感することはほとんどありません。
しかし、厳しい条件の下(強い逆光やスポットライトの当たる人物)や、光学性能を限界まで試すような場面(月面の細かな様子の見分け)では、確かな違いを感じます。
A5との価格差は5,000円です。この差の感じ方は人によってさまざまでしょう。
初めて双眼鏡を手に取るような方ならA5で充分に満足するはずです。
一方、「究極の低倍率コンパクトで見てみたい!」と願う愛好家の方なら、この価格差はむしろお買い得に感じるかもしれません。
ここ数日、外に持ち出していろいろな条件の下で使ってみると、久しぶりに双眼鏡にワクワクを感じている自分に気がつきました。
商品化は難しいだろうと予想していたEDレンズを採用した5×21は、普通の双眼鏡に飽きた人には刺激的な双眼鏡であることは間違いありません。
A+を購入いただいたNさんから感想をいただきました。Nさんは、A1・A4・S1を以前購入いただいております。
コンパクトで使い勝手がいいです。
キャップはストラップにとりつけができるので失くす心配がなく、目口もツイスト式
で調整も早くで楽。
さっと取り出してさっと見ることができます!
覗いてみた感じ、画はごてごてしておらず、すっきりしていて、とても気持ちいいで
す。
空もしっかり青く見える。
すっきり見えるのは、輪郭が太く滲んておらず、細いためかなと思いました。
自分の眼のゆがんでいるところを補正してくれるかようにすっきり見えます。
同じものをS1と見比べてみると、解像度は互角(どちらの機種が像が潰れて見えないことはなかった)なのですが、A+だけ見るとS1より解像度が高いように感じます。不思議ですね。
見比べてみると、S1の見え味は、周辺がちょっと崩れてぼけることが幸いして、中央部が余計ひきたつよう勘違いさせているのかもと思いました。
周辺は崩れてるような気がしますが、使っていて気にならず、
周辺が崩れているがためにナチュラルに見えさせているように感じます。
人工物や業務で見るのにはA+がよく、趣味で動植物を見るのはS1もいいのかな
と思いました。
5×21をベースに、7×21のK+が出たらいいのができるだろうなぁと思いまし
た。
左(黒)がA+で右(白)がA5。外観はまったく同じである。
接眼レンズの径が大きいため、非常に見やすい。もちろんケラレによる光の損失は見られない。
対物レンズにED(特殊低分散ガラス)が使用され、色収差の改善に役立っている。コーティングのグレードも充分であり、特に不自然な色の偏りは見られない。
付属品のすべて。箱、クロス、接眼キャップ、ストラップ、説明書が付く。
ストラップは取付が簡単にできるので、イライラすることもない。
カラーバリエーション:黒(炭のような色合い)
価格:19,800円(税・送料・手数料込)